裏・人物辞典(蒼き狼シリーズ編)

■序

 人類の歴史には、実在したにも関わらず名前が後世に伝わらない人々が必ずと言っていいほど存在する。通称のみが後世に伝わるケースもあれば、確実に存在した重要人物ながら実名どころか通称も分からないケースもある(戦国大名の間の政略結婚で嫁いだ姫に「○○の娘」としか呼び名が残ってない場合など)。こうした名前が伝わらない事態の背景としては、当時の記録の消滅や現代と近代以前との名前に対する考え方の違いもあるだろうが、本稿ではそれについては深入りはしない。
 歴史を題材とした小説やドラマにそうした実名不詳の人物を登場させる場合、便宜上名前を設定する事がよく行われている。そして、それは歴史SLGも同様である。
 また、アジアアフリカ諸国には記録が乏しいあまり、国王の王妃など、おそらくそれらに相当する人物は実在しただろうが、名前どころか人物像すら一切不明の人物が多々存在する。 本稿で扱う蒼き狼シリーズではユーラシア大陸全域とアフリカ北部を舞台とするが、扱う範囲の広さからそうした史料のあまり残っていない地域を取り扱わざるを得ない。また、シリーズの特徴として子孫作りが不可欠になることからたとえ名前や人物像が不明だったとしても国王の妃をどうしても登場させないといけない、という面もある。ともあれ、これらの事情から蒼き狼シリーズは歴史を取り扱った作品ながら「実在したかもしれない人々」が多数登場することとなった。
 本稿では、こうした「実在人物につけられた架空の名前」および「実在したかもしれない人々とその名前」についてまとめてみた。実名も伝わっている実在人物について知りたい方は、激動ユーラシアの人物列伝が詳しいので、そちらを参照されたい。

■凡例

以下断りがない限り、下記の用語はそれぞれ下に示す意味で使用しているので注意されたい。

ジンギスカン :蒼き狼と白き牝鹿・ジンギスカン
元朝秘史   :蒼き狼と白き牝鹿・元朝秘史
蒼き狼IV   :チンギスハーン・蒼き狼と白き牝鹿IV
蒼き狼IVPUK :上記ゲームのパワーアップキット版。

S1   :元朝秘史のシナリオ「モンゴル高原の統一」(1184年開始)
S2   :元朝秘史のシナリオ「チンギス=ハーンの雄飛」(1206年開始)
S3   :元朝秘史のシナリオ「元朝の成立」(1271年開始)
S4   :元朝秘史のシナリオ「世界への道」(1185年開始)

―――   :その作品には登場しない。

■裏・人物辞典

ゲーム上の名前概要
ジンギスカン元朝秘史蒼き狼IV
蒙古文化圏
ビスナム――――――ジンギスカンにてトマット族の長として登場。『集史』によれば、トマット族は南シベリアの狩猟民で族長タイトウル・ソカル(元朝秘史では「ダイドフル」として登場)に率いられてモンゴル帝国に対して反乱を起こした部族という。しかし、ジンギスカン発売当時は族長の名が分からなかったのか、族長として彼のような人物が設定されたと考えられる。名前の由来は、「ナスビ」をひっくり返したものだろう(トマトはナス科)。なお、筆者は実物を持っていないため左には掲示していないが、シリーズ第一作では指導者として「プチャッケ」なる人物が登場した(らしい)。
いずれにせよ、族長の名前が明らかになった元朝秘史ではこうした架空人物は不要となり登場していない。蒼き狼IVではゲームの仕様上、トマット族の存在もろとも抹消されている。
チムスイチムスイ―――ジンギスカンにてキルギス族の長として登場。12〜13世紀当時、キルギス人はモンゴル高原にいた事が知られているが、その指導者の名前は伝わっていない。しかし、キルギス族をゲームに登場させる場合には何かしらの指導者を設定する必要があるので、彼のようなキャラクターが設定されたのだろう。名前の由来ははっきりしない。上記のビスナム同様、言葉遊びで決められているとしたら、元ネタはクビキリギスの別名の「チスイバッタ」、というのは考えすぎだろうか。ちなみに、シリーズ第一作では指導者として「ギオロコ」なる人物が登場した(らしい)。まあ、シナリオ開始して間もなくナイマンに瞬殺されてゲーム上から退場してしまうので、彼の名前が何であろうと「どうでもいい」のだが……。こちらも蒼き狼IVでは登場しない。
ニドンニドン―――ジンギスカンにてジャダラン族(国王はジャムカ)の妃として登場したのが初登場。元朝秘史ではジャムカの妻として登場し、海外版も含めて全ての機種に登場した(英語版のページも参照)。しかし続編の蒼き狼IVではシリーズの名物キャラ「ラッチ」にその座を奪われてリストラ、元朝秘史での固有の顔グラフィックは汎用妃に使い回されている。
史実でのジャムカの妻については、「元朝秘史」(中公新書版)にてジャムカの妻について言及する下りがあり、実像は不明ながら実在したのは確かだが、名前は不明。「ニドン」という名は、チンギス=ハーンの祖先の一人「エケ・ニドン」(男性)から取ったものだろう。
アランアランアランジンギスカンにてケレイト族(国王はトオリル・ハーン)の妃、元朝秘史以降はトオリル・ハーンの妃として登場。
史実ではトオリル・ハーンにはイルカ・サングンという息子が居たが、その母の名は不詳。「アラン」という名は、チンギス=ハーンの祖先の一人「アラン・ゴア」(女性)から取ったものだろう。
ムアルンムアルン―――ジンギスカンではジェルキン族(国王はサチャベキ)の妃、元朝秘史ではダヤン・ハーンの妃として登場。蒼き狼IVでは、ダヤン・ハーンが一国の王から放浪将軍に格下げされたため登場せず。
史実では息子であるクチュルクの生母は美貌のためにチンギス・ハーンに捕らえられたが、その名前は不詳。
ラッチラッチラッチジンギスカンではキルギス族(国王はチムスイ)の妃、元朝秘史にてS1エニセイ河上流(国王はチムスイ)の妃、蒼き狼IVではキルギス族が出なくなった代わりにジャムカの妃として登場。シリーズ皆勤のキャラだが、作品によって立場が変わることから史実の特定の人物を再現したというわけではないようだ。
カルチュカルチュ―――ジンギスカンではオンギラト族(国王はデイセチン)の妃、元朝秘史にてS1興安嶺西麓(国王はデイ・セチェン)の妃として登場。蒼き狼IVではオンギラト族もろとも登場せず。「カルチュ」という名は、チンギス=ハーンの祖先の一人「カルチュ」(男性)から取ったものだろう。
タマチャタマチャ―――ジンギスカンではオングット族(国王はアラクシュ)の妃、元朝秘史にてS1内モンゴル高原(国王はアラクシュ)の妃として登場。蒼き狼IVではオングット族もろとも登場せず。「タマチャ」という名は、チンギス=ハーンの祖先の一人「タマチャ」(男性)から取ったものだろう。
ソチソチ―――ジンギスカンではオイラート族(国王はクトカベキ)の妃、元朝秘史にてS1バイカル湖西岸(国王はクドカ・ベキ)の妃として登場。蒼き狼IVではオイラート族もろとも登場せず。「ソチ」という名は、チンギス=ハーンの祖先の一人「セム・ソチ」(男性)から取ったものだろう。
―――サンサルマサンサルマ元朝秘史ではS3キプチャク(国王はマング・チムール)の妃、蒼き狼IVではマング=チムールの妃として登場。名前の出典は不明。Wikipediaの記事によると、「オルジェイ・ハトゥン」という妻がいることが記されている。
――――――カヌロン蒼き狼IVPUKにてウルス(キプチャク=ハン国)の妻として登場。ウルスにはゲームにも登場するトクタキヤ等の子がいたが、母親の名は不詳。
――――――クトゥス蒼き狼IVPUKにて、ティムール帝国のOPイベントを発生させると、上記のカヌロンに代わってトクタミシュの妃として登場する。名前、顔グラフィック、文化傾向(戦術)ともに固定なので、ランダム作成ではなく固有のデータを持つ人物には違いない。
――――――エミラ蒼き狼IVPUKにてチムール=シャー(チャガタイ=ハン国の君主)の妃として登場。
――――――ミルザ蒼き狼IVPUKにてトゴン=テムル(元)の妃として登場。なお、史実での妃は1370年時点で奇皇后
日本文化圏
―――藤原礼子―――元朝秘史の源平シナリオにて、藤原秀衡の妻として登場。史実での秀衡の正室は藤原基成の娘なので藤原氏出身なのは確実だが、名は不詳。元ネタも不明。同名の女優とは、おそらく関係はないだろう。
――――――範子蒼き狼IVにて藤原泰衡の妻として登場。史書『吾妻鏡』では泰衡に息子がいると記されているため、妻はいたことは確かだがその名は伝わっていない。
――――――亮子蒼き狼IVPUKにて北条泰時の妻として登場。史実での泰時の妻は、三浦義村の娘で出家後の矢部禅尼の名で知られるが、実名は不詳。
中国文化圏
―――宣徳公主宣徳公主元朝秘史ではS2・4の朝鮮(国王はそれぞれ熙宗明宗)の妃、蒼き狼IVでは明宗の妃として登場。史実での熙宗の妃は成平王后(姓は任氏)、明宗の妃は光靖王后(姓は金氏)でいずれとも異なっている。
――――――始安公主蒼き狼IVPUKにて高宗(高麗)の妃として登場。なお、史実での高宗の妃は安恵太后(姓は柳氏)。
―――光明公主光明公主元朝秘史ではS3朝鮮(国王は元宗)の妃、蒼き狼IVでは元宗の妃として登場。なお、史実での元宗の妃は静順王后(姓は金氏) 。
――――――神恵妃蒼き狼IVPUKにて哀宗(金)の妃として登場。なお史実での哀宗の妃は徒単皇后。
麗華麗華公主―――ジンギスカンから登場し、同作では南宋(国王は寧宗)の妃、元朝秘史ではS2・S4華南の妃(国王はそれぞれ寧宗、孝宗)として登場。なお、史実での孝宗の妃は成穆皇后(姓は郭氏)、成恭皇后(姓は夏氏)、成粛皇后(姓は謝氏)。また、寧宗の妃は恭淑皇后(姓は韓氏)と恭聖皇后(姓は楊氏)となり、いずれとも一致しない。
――――――真聖公主蒼き狼IVPUKで太宗(陳朝)の妃として登場。なお、史実での妃は無印でも登場した昭聖公主、次いでその姉の順天皇后(詳細は後述)。
―――永興公主賢英公主蒼き狼IVにて聖宗(陳朝)の妃として登場。なお、史実での妃は元聖天感皇后という。
――――――承天妃蒼き狼IVPUKで芸宗の妃として登場。なお、史実での妃は淑コ皇后という。
インド文化圏
――――――ジャカ蒼き狼IVに登場するアンコール朝配下の将軍で、列伝では「アンコール朝の官人」となっている。しかし当時の東南アジアは中国等の周辺諸国の記録や残された碑文からは王の名しか伝わらないことが多かった。そうした状況で王に使える官僚の名が伝わることは少なく、史実の特定の人物を再現したというよりゲームバランス上設定された架空人物とも考えられる。
しかし一方で、史実ではフランス王国の貴族でラ・マルシェ伯だったリュジニャンのゲーム中の列伝が「フランスの官人」とあったり、スコータイ朝国王のバンムアンが「シャン族の将軍」とあったりと、列伝が微妙に史実を反映していないことが多い。そう考えると、ジャカもまた実は周辺諸国の君主ないしは貴族ではないかという仮説も成り立つのではないだろうか。一応、1189年当時のチャンパ王国に「ジャヤ=インドラヴァルマン4世」という王がいるが……(「ジャヤ」を「ジャカ」と誤読したと仮定。下記のサムタックの件といい、あり得ない話ではない)。
――――――アンメイ蒼き狼IVにてジャヤヴァルマン(アンコール朝)の妃として登場。名前は、19世紀の同名のカンボジア女王から取ったものか。
史実では、息子のインドラヴァルマン(ゲームでは「サムタック」として登場。「王」という意味の"Samtac"を個人名と誤解したか)がいるため、妃がいたこと自体は確かだろう。一応英語版Wikipediaの記事によれば、ジャヤラジャデヴィとインドラデヴィという妃がいたという。
―――エインティ―――元朝秘史にて、S2ビルマ(国王はナラパティシトゥ)の妃として登場。
――――――アパヤ蒼き狼IVPUKにてティロミンロ(パガン朝)の妃として登場。
―――アトゥラティリアトゥラティリ元朝秘史にてS3ビルマ(国王はナラティハパテ)の妃、蒼き狼IVではナラティハパテの妃として登場。
――――――ランサン蒼き狼IVPUKにてボロマラージャ(アユタヤ朝)の妃として登場。
―――ドニアドニア元朝秘史ではS3パンジャブ(国王はバルバン)の妃、蒼き狼IVではバルバン(デリー=スルタン朝)の妃。なお、ゲーム上でのデリー=スルタン朝の君主と妃は、所属文化圏が元朝秘史ではイスラム、蒼き狼IVではインドと一定しないが、蒼き狼IVPUKのみ登場する人物を考えてインド文化圏に統一している。
――――――ジャヤミシャ蒼き狼IVPUKにて、フィールーズ(デリー=スルタン朝)の妃として登場。
―――ムムターズムムターズ元朝秘史ではS 南インド(国王はバルラーラ2世)の妃。蒼き狼IVではクローットゥンガ(ヒンドゥー諸王朝)の妃として登場。ムムターズとはペルシア語で「光」という意味の女性名で、ムガール帝国のムムターズ・マハルが有名。
――――――ヴァラディヤ蒼き狼IVPUKにてパーンディヤ1世(ヒンドゥー諸王朝)の妃として登場。
―――カマラカマラ元朝秘史ではS4南インド(国王はマーラヴァルマン)の妃、蒼き狼IVではマーラヴァルマン(ヒンドゥー諸王朝)の妃として登場。
――――――パドミン蒼き狼IVPUKにてブッカ1世(ヒンドゥー諸王朝)の妃として登場。
内アジア文化圏
シイラシーラ―――ジンギスカンから登場し、同作ではカルルク族(国王はアルステン)の妃、元朝秘史ではS2S4ジュンガリア(国王はアルスラン)の妃として登場。アルスランが西遼配下に格下げになったとともに、存在を抹消されている。
―――クン―――元朝秘史にて、S2キプチャク(国王はバスチ・ハーン)の妃として登場。「クン」は「クマン族」の別称。
ロサンロサンロサンジンギスカンから登場し、同作では吐蕃(国王はサキアパ。サキアパンディタ(サキアパンチェン)のこと。)の妃、元朝秘史ではS2チベット(国王はサキアパンチェン)、蒼き狼IVではサキアパンディタ(吐蕃)の妃として登場。
――――――ペイサ蒼き狼IVにてパスパ(吐蕃)の妃として登場。
――――――ユムソン蒼き狼IVPUKにて、ツォンカパ(吐蕃)の妃として登場。
イスラム文化圏
―――タルーブタルーブ元朝秘史ではムハンマド(ホラズム)の妻として登場。蒼き狼IVではムハンマドの叔父スルタン=シャー(ホラズム)の妻となっている。
―――シーリーンシーリーン元朝秘史ではゴーリー(ゴール朝)の妃、蒼き狼IVではゴーリーの兄ギヤースの妃として登場。名前の由来は、ニザーミー著『ホスローとシーリーン』に登場するササン朝の妃シーリーンより。
―――ゾバイダゾバイダ元朝秘史ではS5アラビア(国王はアル・ナーセル)の妃、蒼き狼ではアル=ナーセルの妃として登場。名前は、アッバース朝5代目カリフハールーンの妃にズバイダから取っていると見られる。
――――――シェーラ蒼き狼IVPUKにて、ムスタンシル(アッバース朝)として登場。
――――――ヤルナ蒼き狼IVPUKにて、ウワイス(ジャライール朝)の妃として登場。
ジェムキンジェムキン―――ジンギスカンから登場し、同作ではセルジュク連邦(国王はケレクバド。年代的にはカイクバード1世のことか)の妃、元朝秘史ではS2小アジア(国王はケイホスロー1世)の妃として登場。セルジューク連邦(セルジュク=トルコ分裂後の諸政権)が独立した勢力として登場しない蒼き狼IVでは、彼女もまたリストラされてしまった。
――――――ミズラ蒼き狼IVPUKにて、ムラト1世(オスマン=トルコ)の妃として登場。ちなみに、息子のバヤズィト1世の母親はギュルチチェク・ハトゥンという。
―――サフィーアサフィーア元朝秘史、蒼き狼IVともにサラディン(アイユーブ朝)の妻として登場。
――――――ロム蒼き狼IVPUKにて、サラディンの甥アル=カーミル(アイユーブ朝)の妃として登場。
―――シャーラシャーラ元朝秘史、蒼き狼IVともにバイバルス(マムルーク朝)の妻として登場。
――――――カラル蒼き狼IVPUKにて、シャアバーン(マムルーク朝)の妃として登場。
―――アニスアニス元朝秘史ではS2マグリブ(国王はムハマドナーセル(ムワッヒド朝)の妃。蒼き狼IVではムハマドナーセルの父アル=マンスールの妃として登場。
――――――ラビナ蒼き狼IVPUKにて、ヤフヤー1世(ハフス朝)の妃として登場。
―――イァティマードイァティマード元朝秘史にてS3マグリブ(国王はムンタシル)の妃、蒼き狼IVにてムンタシル(ハフス朝)の妃として登場。
――――――ラッラ蒼き狼IVPUKにて、アフマド2世(ハフス朝)の妃として登場。
――――――ファルマ蒼き狼IVPUKにて、ウトマーン(マリーン朝)の妃として登場。
――――――アズィーハ蒼き狼IVにてヤアクーブ(マリーン朝)の妃として登場。
――――――アルース蒼き狼IVPUKにて、アジーズ1世(マリーン朝)の妃として登場。
東欧文化圏
―――エウファミア―――元朝秘史にて、S2ルーシ(国王はフセヴォロド3世)の妃として登場。なお、史実での妃はマリヤ。蒼き狼IVでは、後述のヤロスラヴナに出番を奪われたためか登場しない。
―――ジグリダ―――元朝秘史にて、S2バルト海東岸(国王はミンダウガス)の妃として登場。史実でのミンダウガスの妃は、モルタ。名前の由来は、「ジークフリード」の女性形?
――――――アナスタシア蒼き狼IVではベーラ3世(ハンガリー)の妃として登場。史実での妃は、1189年時点でマルグリット(マルギト)
―――アンナアンナ元朝秘史でS3バルト海東岸(領主はフォン・バルク)の妃、蒼き狼IVではヤロスラフ3世(ルーシ諸公国)の妃として登場。史実でのヤロスラフ3世の妃は、クセニア
――――――ウグリーチ蒼き狼IVPUKにて、ユーリー(ルーシ諸公国)の妃として登場。史実では、スヴャトスラヴナ。
――――――エールス蒼き狼IVPUKにて、カジミェシ3世(ポーランド)の妃として登場。
――――――リーシャ蒼き狼IVPUKにて、ラヨシュ1世(ハンガリー)の妃として登場。1370年当時の妃は、エリザベータ(エルジェーベト)。リーシャを愛称と考えるなら、史実を再現したと無理やり考えることも可能だが、他の例を見る限り偶然だろう。
――――――イジャス蒼き狼IVPUKにて、ドンスコイ(ルーシ諸公国)の妃として登場。史実での妃は、エウドキヤ(エフドキヤ)
――――――テオフィノ蒼き狼IVPUKにて、ヨハンネス5世(ビザンツ帝国)の妃として登場。史実での妃は、ヘレネ(カンタクゼノスの娘)。
西欧文化圏
―――エウジットエウジット元朝秘史にて、S3ドイツ(国王はオットー4世)の妃として登場。エウジットという名前は、フリードリヒ1世の母と同名。史実でのオットーは1206年当時未婚。その後2度結婚しているが1度目は死別、2度目はオットー自身がすぐに亡くなり、どちらも短期間に終わっている。
蒼き狼IV無印ではオットーが国王になることはないので、登場せず。しかしPUKにて、神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世の妃として再登場を果たした。なお史実でのフリードリヒの妃は、初めはコンスタンサ、次いでブリエンヌの娘イザベル(ヨランダ)、その次がイザベラ。また、愛妾にビアンカという女性がいたことが知られている。
――――――クラーラ蒼き狼IVPUKにて、カール4世(神聖ローマ帝国)の妃として登場。カール4世は幾度か結婚しているが、1370年当時の妃はエリーザベト。クラーラという妃の名は確認できない。
――――――クリスティーヌ蒼き狼IVPUKにて、ホーコン4世(ノルウェー)の妃として登場。史実での妃は、マルグレーテ
――――――セシリア蒼き狼IVPUKにて、ホーコン6世(ノルウェー)の妃として登場。史実での妃は、マルグレーテ1世
――――――ブランカ蒼き狼IVPUKにて、フェルナンド3世(カスチラ)の妃として登場。史実での妃はベアトリス。ブランカという名前は、「白」を意味する女性の名前のスペイン語形で、ブランシュ(フランス語形)、ビアンカ(イタリア語形)も同義。
――――――ウラカ蒼き狼IVPUKにて、エンリケ2世(カスチラ)の妃として登場。史実での妃は、フアナ。ウラカという名前は、12世紀初頭のカスチラ女王ウラカから取ったものか。
――――――ローラ蒼き狼IVにて、オリオ(ベネチア共和国)の妻として登場。中世ヨーロッパの王侯は女性も名前が後世に伝わっていることが多いが、彼のような共和国家の頭領の夫人の名前は名が残ることは稀のようだ。
――――――アンジェラ蒼き狼IVにて、ティエポロ(ベネチア共和国)の妻として登場。
――――――アンジェラ蒼き狼IVPUKにて、ジャコモ(ベネチア共和国)の妻として登場。上のアンジェラとは、顔が違うので同名の別人(ということにしておこう)。ジャコモは上のティエポロの父親なので、息子の母親となる妻がいたことは確かだが、その名前は調べた限りでは確認できない。
――――――キアラ蒼き狼IVPUKにて、フェデリーコ3世(両シチリア王国)の妃として登場。史実での妃は、コンスタンサ。キアラという名前は、クララ(クレア)のイタリア語形。
――――――エレナ蒼き狼IVPUKにて、ガレアッツォ2世(ミラノ公国)の妃として登場。史実での妻はビアンカ
――――――ニーナ蒼き狼IVPUKにて、ボードゥアン2世(ラテン帝国)の妃として登場。史実での妃は、マリー(ブリエンヌの娘)

(総評)

 こうして「実名が分からない」「実在したかも分からない」人物を列挙してみると、概して女性に偏っている。それは、このゲームが取り扱う時代である中世では歴史そのものが男性中心に記されていた事とは無関係ではないだろう。
 そうした背景はさておき、全体の傾向としては前作に何らかの役割で登場した人物が次回作ではある程度同様の立ち位置で再登場することがしばし見られる。ジンギスカンから三作連続でトオリル・ハーンの妃として登場する「アラン」がその代表だろう。こうしたケースからは、名前も人物像も明らかでない「存在したかもしれない歴史人物」に、決まった名前とある程度のキャラクター性を付与してゲーム上のキャラクターとして育てていこうとする製作者の姿勢が伺える(そこ、「ただの使い回しじゃん」とか言わない)。
 また、中には初期の作品から登場していながら、名前の判明している実在人物と入れ替えられたり、ゲームシステムの変化等の理由で淘汰されていくケースもあり、悲哀を感じさせる。
 一方で際立つのが、蒼き狼IVPUKで新たに登場した妃だ。彼女らの名前は史実の妃のものとは確実に異なっており、史実の妃の代替と見なすだけの理由もない。ここは素直に、史実の妃を調べる手段がなかったがために彼女らのようなぽっと出のキャラクターを設定した、と見るべきだろう。
 もっとも、蒼き狼IVPUKが発表された当時の状況と2011年現在のようにネットである程度には信用できる情報を手軽に拾える状況とは違う、という点にも注意する必要がある。前作までにはなかったシナリオ年代ゆえに「使い回されるべきキャラクター」が居なかったという事情もあるのだろうが……。

■備考その1

 名前も経歴も明らかだが、蒼き狼IVでは史実とは違う人物の妃となっているケースがある。具体的には、下記の通り。
 個々の妃の詳細についてはリンク先のWikipediaの記事や、激動ユーラシアの人物事典が詳しいので、そちらを参照されたい。

ゲーム上の名前登場作品概要
アイジアルク元朝秘史〜『東方見聞録』にて、ハイドゥの娘として登場。名前は「輝く月」という意味。ゲーム上の夫は、父ハイドゥ。
オルガナ元朝秘史〜史実ではカラ=フラグ(チャガタイの孫)、次いでアルグ(チャガタイの孫)の妃。ゲーム上の夫は、ボラク(チャガタイ=ハン国)。
呉皇后蒼き狼IV〜史実では、高宗(南宋初代皇帝)の妃。ゲーム上の夫は、孝宗。
李皇后蒼き狼IVPUK史実では、光宗(趙惇)の妃。ゲーム上の夫は、理宗。史実での理宗の妃は、謝道清、賈貴妃(賈似道の姉)など。
昭聖公主元朝秘史〜史実では、太宗(陳朝)の妃。ゲーム上の夫は、高宗(李朝)で実の祖父にあたる。
順天公主元朝秘史〜史実では上の昭聖公主の姉で太宗(陳朝)の妃。ゲーム上では元朝秘史ではS3華南(国王は度宗)の妃、蒼きIVでは度宗の妃として登場。なお、史実での度宗の皇后は全皇后と楊淑妃という。
彼女が時代も国も違う人物の夫になっている理由、そして彼女の存在を差し置いて上述の「真聖公主」が登場する理由は不明だが、ある程度推測をしてみたので後述する。
岐国公主ジンギスカン〜史実では、金の皇帝衛紹王の娘。後に、チンギス=ハーンの第四皇后となる。ゲーム上は、従兄弟の章宗の妃。
チャカジンギスカン〜李安全(西夏の襄宗)の娘。チンギス=ハーンに妃として献上された。ゲーム上での夫は、大伯父の仁宗
ラージヤ蒼き狼IVPUKイルトゥミシュの娘で、デリー=スルタン朝の女性スルタンラズィーヤのこと。史実では、配下の将軍アルトゥーニアと結婚している。ゲーム上では、父イルトゥミシュの妃となっている。
トラキナ元朝秘史トレゲネとも。史実ではメルキト族のダイル・ウスンの妃、次いでオゴダイの皇后。ゲーム上は、モンゴルからは少し離れたS2高昌(国王はバルチュク)の在野の妃になっている。
プスカ元朝秘史〜西遼の第2代皇帝・耶律夷列の妹で、チルクの叔母。ゲーム上の夫は、チルク。
ヤロスラブナ元朝秘史〜中世の物語『イーゴリ遠征物語』では、イーゴリ公の妻。ゲーム上での夫は、フセヴォロド3世(前出)の妻になっている。ヤロスラブナとは「ヤロスラフの娘」という意味の通称なので、別のヤロスラフの娘の可能性もあるとは言えるが……。
ヤドヴィカ元朝秘史〜正しくはヤドヴィガ。史実では、ヘンリク1世(ポーランド)の妃。ゲーム上での夫は、カジミェシ2世。史実でのカジミェシ2世の妃は、ヘレナ
サロメア元朝秘史〜史実では、レシェク1世の娘。ガーリチ公カールマーン(コロマン)に嫁いだ。ゲーム上では、ヘンリク1世(前出)の妃。
マーリア蒼き狼IVPUK史実ではベーラ4世の妃。ゲーム上での夫は、その父のエンドレ(ハンガリー)の妃。史実でのエンドレの妃は、ゲルトルート(元朝秘史では「ゲイトルート」表記で登場)
メヒチルデ元朝秘史〜神聖ローマ皇帝アドルフの娘。上バイエルン公ルドルフ1世に嫁いだ。ゲームでの夫は、同名の別人である神聖ローマ皇帝ルドルフ1世。ちなみに「神聖ローマ皇帝」ルドルフ1世の史実での妃は、ゲルトルート
クレメンティア元朝秘史〜神聖ローマ皇帝ルドルフ1世の娘。ナポリ王シャルル2世の子シャルル=マルテルに嫁ぐ。ゲームでの夫は、フィリップ3世ちなみに、フィリップ3世の妃はイザベル、死別後はマリーである。
コンスタンス元朝秘史〜史実では、シチリア王ギョーム2世の叔母で、神聖ローマ皇帝ハインリヒ6世に嫁ぐ。ゲーム上での夫は、ギヨーム2世。史実でのギヨーム2世の妃は、ジョーン
ジョヴァンナ蒼き狼IVPUKアンジュー朝のナポリ女王、ジョヴァンナ1世。ハンガリー王ラヨシュ1世の弟・エンドレをはじめとして4度結婚する。ゲーム上での夫は、コンタリーニ(ベネチア共和国)
ベレンゲラ元朝秘史〜カスチラ王アルフォンソ8世の長女で、レオン王アルフォンソ9世の王妃。ゲーム上の夫は、父アルフォンソ8世。史実でのアルフォンソ8世の妃は、エレノア(レオノール)
エレオノラ元朝秘史〜カスチラ王アルフォンソ10世(賢王)の異母妹。イングランド王エドワード1世の最初の王妃。ゲームでの夫は、兄アルフォンソ賢王。史実でのアルフォンソ賢王の妃は、ビオランテ(ヨランダ)

(考察)

 上で紹介した妃を初登場作品で分類してみると、大きく分けて3つの傾向があるように見える。

(1)主人公であるチンギス=ハーンで当該国を攻略するとその女性を妃として迎えるという、史実を再現するための意図的な仕様(例:岐国公主、チャカ)。

(2)元朝秘史で登場した妃が、蒼き狼IVにて史実での夫とは違う人物の妃にされてしまったケース(多数)。
 これらの妃は元朝秘史でのプレイ選択不可能な国に集中していることから、上記の事態の原因として次のようなことが考えられる。
 「元朝秘史では、攻め取った国の妃が連れてこられてもその国の君主の妃とは名言されないので、
  ゲーム開始時の国王の史実上の妃でなくとも矛盾はない。
  そのため、その国家の代表として国王の娘や時代の近い皇后や女王が設定されていた。
  しかし、それらの妃を次回作でそのまま登場させてしまったので、史実を無視して各国の君主の妃とされてしまった。」

(3)蒼き狼IVPUKで初登場したが、(2)のケース同様に年代の近い著名な女性を史実の夫ではない人物の妻にしているケース。

 (1)のケースは、イベントで再現するとますますイベント数のモンゴル偏重を招くために止むを得ない処置と考えられる。
 (2)の場合は、どうだろうか。全くの架空人物なら、上で述べたように使い回しも前作ファンへのサービスとなるだろう。しかし、歴史人物をこうした形で使い回すのは、欠陥とまでいかなくとも史実との矛盾を生じる。筆者は、このゲームをきっかけに12〜14世紀の歴史に興味を持ったが、そうして知るほどにこの矛盾に気付かされてしまい、残念でならない。
 こうした状況は、使い回す元がないはずの(3)のケースでも続いている。ここまで来ると、一種のやっつけ仕事とまで思えてしまう。ただ、代わりに史実での妃を登場させるにしても情報がない場合もあるし、前項のようにゲーム製作当時では仕方なかった面もある。近親云々というよりかは、名前を借りた別人と考えるのが妥当なところだろう。

(以下、執筆中)

■参考文献・サイト

・日本語版Wikipedeia  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8
・英語版Wikipedia  http://en.wikipedia.org/wiki/Main_Page(英文)
・中国語版Wikipedia  http://zh.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:%E9%A6%96%E9%A1%B5(中文)


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