改良案に代えて

 本来、このページでは架空武将の命名システムの改良案を提示するつもりだった。「この地域の命名システムはこう作るといいのでは」と地域ごとに具体案を提示する構想を、サイト開設当初は思い描いていた。

 思えば、その時はまだ「いつか来るべき次回作」を期待していたのかもしれない。

 2016年現在、蒼き狼IVが発売されてから18年経つが、シリーズの最新作は未だ出ていない。次回作が出ない事情について様々な憶測がなされてきたが、その内容はここでは取り扱わない。昔のような製作費が安く様々な題材でゲームを次から次へ出して広く稼ごうとした時代から、高騰する製作費の回収の見込める題材に資金・人材を絞らざるを得ない時代に変わった。ただ、それだけのことかもしれない(その割には、大○海時代Vのような見込み違いをやらかしているが)。

 サイト開設から10年以上が経ち、筆者の意見も当初から変わってきた。
 多くの史料に触れるにつれ、大雑把に分けられた地域に単一の命名システムを当てはめることの無理を認識したり、海外版元朝秘史の命名システムの分析を通して、名前をパーツごとに分解して組み合わせる方法が実は漢字圏の発想の産物ではないかと思い至ったりした点は大きい。

 様々な海外製のゲームに触れたことも、また理由の一つだ。特に、Paradox社に代表される欧米のシミュレーションゲームメーカーの作る命名システムは、きわめて単純明快だ。

「文化ごとに用意した個人名候補の中から一つ、名字候補から一つずつ選んで繋げる」

 これは筆者がかつて挙げた分類ではB'型と言えるが、この方式の長所はひたすら個人名や名字の候補を増しさえすれば、わりと自然な名前をほぼ無限に生成できることだ。インターネットのなかった時代、つまり自由に使える資料が制約された時代ならば用意できる候補も限られていたが、現代においては検索だけでも名前の候補を集めることは十分に可能だ。デタラメな文字列にそれっぽい語尾を加える方法(A型)や名前のパーツを組み合わせる方法(B型)に頼らざるを得ない状況では、もはやないのだ。筆者がこれまでのコラムで上げてきた課題の大半は、この一点で解決してしまうのだ。

 当然ながら、上記のシンプルなシステムをそのまま当てはめると、不都合なケースは多々出てくる。たとえば、日本の通字(一族で共通の漢字を使用。織田家の「信」など)や中国の系字(兄弟で共通の漢字を使用)はそのままでは対応できない。また、名字を近代まで使用していなかった文化圏においても便宜的な名字を付けて同様の取扱いをすることに違和感がないわけではない。しかし、それも文化圏ごとにシステム上で特別な処理を加えることで対応できると考えられる(そういう意味では、非欧米圏、特に日本のゲームメーカーや個人のゲーム作成者への期待は依然としてあるが)。

 以上のことから、当サイトでは架空武将の命名システムの改善案を扱わないこととした。長年準備中としながらこのような結論に至ったことについて、深くお詫び申し上げたい。


 架空武将の存在というものは、史実を取り扱う歴史シミュレーションにおいてはあくまで添え物に過ぎない。そのようなキャラクターの名前の付け方一つにこだわるなど、取るに足りない、些細なこだわりかも知れない。けれども、グラフィックや演出の派手さがいずれは陳腐化するのに対して、作り手のこだわりは時代を超えて評価されるものだと思う。
 一つのSLGシリーズを分析して先人たちの苦心の成果を明らかにしてきた身としては、そういうこだわりをもった人々がゲーム制作に進んでくれることを願ってやまない。


以前掲示していた個別の改良案は下記を参照。

架空人物命名システムの改良案(個別論)


awakの『蒼き狼と白き牝鹿』資料室に戻る