架空人物命名システムについて(序論)

・序

 「チンギスハーン −蒼き狼と白き牝鹿IV−」というパソコンゲームがある。説明すると、プレイヤーは12〜15世紀にユーラシア大陸に存在した国家の君主としてユーラシア征服を目指す、というゲームだ。一応はチンギス=ハーン率いるモンゴル帝国とその子孫達が主人公扱いされているものの、中世のユーラシアを題材にした数少ない歴史SLGの一つである事から、東洋史や西欧史のファンからも支持を集めている。更に、パワーアップキットを導入する事で新たに国を作成してゲームを始める事が可能になる。ゲームバランスは緩めなので慣れるとまず負ける事が無くなるのが残念だが、むしろ、プレイヤーが縛りを加えながらあれこれ想像する余地が大いにあるという点がこのゲームの魅力だろう。

・架空人物と命名システム

 さて、このゲームを他の国産SLGと比べた時に大きな特徴と言えるのが、君主が子供を作って後継者とする事が出来る点だ。何しろ大陸制覇には時間がかかるので、君主が寿命を迎える前に後継者を育てていかないと、君主が死亡した時点でゲームオーバーとなってしまうので、むしろ後継者作りは必要な仕事になってくる。従って、多くの場合君主は内政も外交も遠征も部下に任せて後継者作りに精を出さねばならない。そうして生まれてくる子供はifの存在、つまり架空人物とならざるを得ないので、架空武将制度はこのゲームに欠かせなくなるのだ。

 とはいえ、馴染みの深い日本や中国の人名ならいざ知らず、モンゴルや中央アジアの人名といわれても大半の人はピンとこないだろうし、史実で存在しながらゲーム上に登場していない子供の名前を付けていくにしても限度がある。

 それ故に、「地域ごとに異なった命名を自動的に行う、一定のパターン」を予めプログラム側で用意しておく必要がある。筆者は、これを架空人物の「命名システム」と呼んでいる。このシステムによってプレイヤーが子供の命名で深く悩む事はなくなるし、部下として現れる架空武将の生成もスムーズに行われる。

 とはいうものの、世界の様々な名前を再現しようとするあまり、プレイヤーから見て命名システムは一種のブラックボックスとなっていて、その実態を正しく掴む事は容易ではない。これよりの文章は、蒼き狼・白き雌鹿IVにおける架空人物の命名システムの実態についての調査だ。この調査は基本的に、新国王の作成時と子供の命名時で[お任せ]ボタンを何回も押して試行するという地道な作業によってサンプルを収集する事によって行った。改造やプログラム解析は筆者の専門外なので、この調査では行っていない。

 なお、当ゲーム(以降、「蒼き狼IV」と表記)にはWINDOWS版とPS版があるが、この調査にはWINDOWS版を使用している。PS版の架空人物命名システムはWINDOWS版にほぼ準拠していると考えられるが、容量の都合上バリエーションを減らされている可能性がある。PS版のユーザーの方は、その点を考慮した上でこのレポートを参考にして頂きたい。

・命名システムの類型分類

 さて、架空人物の命名システムについていくつかの「パターン」が存在している事が判明した。当サイトでは、次のような分類を行なう(下記の分類名は便宜的なもので、当サイトでしか通じない事に留意されたい)。

A型… 数文字の任意の文字列の後ろに、いくつかある語尾の中から一つを選んで付けて、命名する。

B型… 2個、または3個の要素を組み合わせて、命名する。

B'型… 間に「=」を挟みつつ、姓と名(もしくはそれに準ずるもの)を組み合わせて、命名する。

C型… いくつかある名前候補の中から一つを選んで、命名する。

 A型は、蒼き狼シリーズ通じて使われてきた命名法だ。あまり個人名に関する資料の無い地域でも簡単に「それっぽい武将名」を作れるという利点はあるが、一方で「バカトゥス」「ヘボスタン」「ナーニーヌネ」「コネキクラージャ」(以上の名前は、シリーズ三作目「元朝秘史」において本当に目撃されたものだ。ソース)という珍妙な名前を生み出してきた。珍妙でなくとも、名前とは思えない名前ばかりでプレイヤーが架空人物に感情移入しにくくなる一因となっている。

 B型は、その地域でよく見られる名前の要素を組み合わせて一つの人名をつくるもので、付けられる名前も「佐竹義親」「王徳」「ランスマルク」と無理の無いものになっている。

 尚、B'型は本来B型に含まれるべきものだが、「姓」と「名」(もしくはそれに準ずるもの)の二つの要素で名前を作りその間に「=」を入れて区切る方法を用いる地域が少なからず存在する為、独立して扱う事にした。

 C型は、要するに命名の際「ジョージ」「フランソワ」「ハインリッヒ」という単一要素からなる名前が候補として出てくるもので、西欧の君主が子供を名付ける時のみ使用される。

 興味深いのは、複数の型が一つの地域で併用される事がある、という事だ。先述のC型が存在する西欧でも依然として一般の武将はB型やB'型によって名付けられるのは勿論の事、エジプトのようなB'型が圧倒的な地域においてもたまにA型の名前を持つ武将が現れる。

 このレポートでは、各地域ではどんな型が用いられ、そしてどういう命名がなされているかを調査する事にしたい。


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