裏・人物辞典(信長の野望シリーズ編)

■序

 人類の歴史には、実在したにも関わらず名前が後世に伝わらない人々が必ずと言っていいほど存在する。通称のみが後世に伝わるケースもあれば、確実に存在した重要人物ながら実名どころか通称も分からないケースもある(戦国大名の間の政略結婚で嫁いだ姫に「○○の娘」としか呼び名が残ってない場合など)。こうした名前が伝わらない事態の背景としては、当時の記録の消滅や現代と近代以前との名前に対する考え方の違いもあるだろうが、本稿ではそれについては深入りはしない。
 歴史を題材とした小説やドラマにそうした実名不詳の人物を登場させる場合、便宜上名前を設定する事がよく行われている。そして、それは歴史SLGも同様である。

 今回は、信長の野望シリーズにおいてそうした「仮の名前」を付けられた人々について調査してみた(登場する人物の大半が共通する太閤立志伝シリーズも参考扱いで取り上げる)。
 同シリーズに登場するのは、名前も実績も知られている戦国武将ばかりで(後述する例外を除く)、仮の名前をわざわざ決めてやる必要などないように見える。しかしその一方で、大名間の婚姻政策を再現するために武将とは別枠で姫が登場する。お市の方のように著名な人物は初期の作品から登場しているが、近年では主に大名間の姻戚関係を再現する目的であまり有名でない姫君も登場しており、中には実名が伝わっていないケースもある。 通称が知られている人物ならばそれをそのまま使えばいいのだが、信長の野望シリーズでは名字と名前の両方がシステム上必要となることが多く、 その結果、通称しか分からない人物にもゲーム独自の名前をつけたケースが多く見られた。本稿では取り上げるのは、主にこうした女性達だ。
 なお、初期配置では存在せずゲーム側で作成された架空人物については、当サイトのレポートで既に紹介しているので一読されたい。

■裏・人物辞典

ゲーム上の名前概要
烈風伝天下創生天道太閤立志伝V
東北・蝦夷
伊達朱伊達花伊達花―――伊達稙宗の娘。蘆名盛氏の正室。蘆名盛興の母。
――――――伊達秋―――伊達稙宗の娘。相馬顕胤に嫁ぐ。Wikipediaの伊達稙宗の項によると、「屋形御前」と呼ばれたという。
―――伊達蛍伊達蛍―――伊達稙宗の娘。相馬義胤に嫁ぐ。Wikipediaの相馬義胤の項によれば、越河御前と呼ばれたという。
伊達露伊達瞳伊達瞳―――伊達晴宗の娘。蘆名盛興の正室。後に、盛興を継いで蘆名家当主となった盛隆の正室となる。Wikipediaの伊達晴宗の項によると、実際には「彦姫」という名だったらしい。
伊達薫伊達芳伊達芳―――伊達晴宗の娘。佐竹義重の正室。佐竹義宣の母。
――――――蘆名順―――蘆名盛高の娘。伊達稙宗の正室。伊達晴宗の母。法名は、泰心院。
―――蘆名葵蘆名葵―――蘆名盛氏の娘。小峰義親に嫁ぐ。実名は不詳。
―――二階堂和二階堂和―――蘆名盛隆(二階堂盛隆)の娘。蘆名家の跡取りとなった蘆名盛重に嫁ぐ。実名は不詳。
―――南部緑南部緑―――南部晴政の娘。南部家の婿となった九戸実親の正室。実名は不詳。
―――蠣崎圭蠣崎圭―――蠣崎季広の娘。安東茂季の正室。実名は不詳。
関東
―――北条誉北条誉―――北条氏綱の娘。北条綱成に嫁ぐ。法名は「大頂院光誉耀雲」。実名は不詳。ゲーム上の名前「誉」は、法名からとったと思われる。
―――北条唯北条唯―――北条氏綱の娘。足利晴氏の室。足利義氏の母。法名は芳春院で、ゲーム上の名前とは特に関係はみられない。実名は不詳。
北条杏北条春北条春早川殿北条氏康の娘。甲相駿三国同盟の一環として、今川氏真に嫁ぐ。史実では早川殿と呼ばれ、太閤立志伝ではこちらの呼び名で出ている。実名は不詳。ゲーム上の名前の「春」は、法名の蔵春院からとられたものだろう。
生前の実名から法名(戒名)をつける習慣は戦国時代にもしばし見られたようで、法名から逆算してゲーム上の名前を設定するのは的外れではないのだろう。
―――北条光北条光―――北条氏康の娘。北条綱成の嫡男氏繁に嫁ぐ。史実では七曲殿と呼ばれ、法名は「新光院殿窓泰太空大姉」。実名は不詳。ゲーム上の名前「光」は法名からとられたものだろう。
―――北条睦北条睦―――北条氏康の娘。太田資正の嫡男太田氏資に嫁ぐ。法名は「長林院」で、ゲーム上の名前とは特に関係は見られない。実名は不詳。
―――北条円北条円―――北条氏康の娘。足利義氏に嫁ぐ。法名は「浄光院殿円桂宗明大禅定尼」。実名は不詳。ゲーム上の名前「円」は、法名からとられたものだろう。
北条鶴北条静北条静相模北条氏康の娘。武田勝頼の継室(嫡男信勝の母とは別人)。天目山の戦いに敗れた夫とともに自害。北条夫人と呼ばれ、法名は「桂林院殿本渓宗光」。実名は不詳。ゲーム上の名前の「鶴」「静」の由来は不明。太閤立志伝での呼び名は、織田信長正室の帰蝶が濃姫(「美濃の姫」の意)と呼ばれたのと同様、出身地を元にした呼び名だろう。
―――北条貞北条貞―――北条氏政の娘。千葉邦胤に嫁ぐ。法名は「芳桂院殿貞至隆祥大禅定尼」。ゲーム上の名前「貞」は法名から取ったものだろう。
―――北条苗北条苗―――北条綱成の娘。北条氏政の弟氏規に嫁ぐ。法名は「高源院殿」で、ゲーム上の名前との関連は不明。
―――遠山覚遠山覚―――遠山綱景の娘。北条氏康の養女として太田康資に嫁いだ。法名は、法性院
―――太田妙太田妙―――太田資正の娘。佐竹義重の側室。
―――佐竹英佐竹英―――佐竹義昭の娘。宇都宮広綱に嫁ぐ。宇都宮国綱の母。法名は、南呂院
―――佐竹藤佐竹藤―――佐竹義久の娘。義重の養女として宇都宮国綱に嫁ぐ。Wikipediaの宇都宮国綱の項によれば、小少将と呼ばれたという。
―――那須正那須正―――那須資胤の娘。佐竹義宣の正室。Wikipediaの佐竹義宣の項によれば、法名は正洞院。ゲーム上の名前は法名から取ったものだろう。
―――足利梓――――――足利晴氏の娘。里見義弘に嫁ぐ。実名は不詳。
東海・甲信・北陸
今川椿今川嶺今川嶺嶺(PS2のみ)今川義元の娘。甲相駿三国同盟の一環として、武田義信に嫁ぐ。義信自害後は駿河に送還された。ゲーム上の名前「嶺」の由来は、法名の嶺松院と思われる。
今川蘭――――――照姫(PS2のみ)今川氏親の娘。北条氏康の正室。北条氏政、氏照ら兄弟の母。法名は、瑞渓院殿光室宗照大姉
――――――今川和―――今川氏親の娘。鵜殿長持の室。実名は不詳。
―――斎藤朝斎藤朝―――斎藤道三の娘。筒井順慶に嫁ぐ。実名は不詳。
―――斎藤郁斎藤郁―――斎藤義龍の娘。六角義治に嫁ぐ。実名は不詳。
武田皐―――武田恵南姫(PS2のみ)武田信虎の娘。今川義元の正室。今川氏真の母。ゲーム上の名前の由来は、法名の定恵院と思われる。
武田桜武田梅武田梅武田信玄の娘。甲相駿三国同盟の一環として、北条氏政の正室となる。北条氏直の母。同盟破綻後は離縁され甲斐に送還された。名前の由来は、法名の黄梅院と思われる。
―――武田見武田見―――武田信玄の娘。穴山信君に嫁ぐ。法名は、見性院。ゲーム上の名前は、法名から取ったものだろう。
―――長尾桃長尾桃―――長尾為景の娘。上杉謙信の姉。上杉景勝の母。法名は、仙桃院(仙洞院)。実名は綾という。
―――長尾華長尾華―――長尾政景の娘。上杉景虎に嫁ぐ。法名は、清円院または華渓院。大河ドラマ「天地人」では「華姫」名義。
――――――畠山椿―――畠山義総の娘。六角義賢に嫁ぐ。実名は不詳。
―――朝倉東朝倉東―――朝倉義景の娘。顕如の息子教如と婚約する。実名は不詳。
近畿・中国・四国
足利澪足利詩足利詩―――足利義晴の娘、足利義輝と足利義昭の妹。織田信長の仲介により三好家当主の三好義継に嫁ぐが、夫が足利義昭に味方したために織田信長に若江城を攻め落とされ、夫と子と共に自害して果てたという。
細川楓細川扇細川扇―――細川晴元の娘。朝倉義景の正室となるが、早世。実名は不詳。
六角菊―――六角凪―――六角定頼の娘。細川晴元の継室。実名は不詳。
―――六角辰六角辰―――六角定頼の娘。北畠具教に嫁ぐ。実名は不詳。
―――六角艶六角艶―――六角義賢の娘。畠山義綱の正室。実名は不詳。
―――浅井文浅井文―――浅井亮政の娘(久政の娘とも)。斎藤義龍の正室。斎藤龍興の母。近江の方(近江局)と呼ばれた。
―――浅井福浅井福―――浅井久政の娘。京極高吉に嫁ぐ。京極高次の母。京極マリアの名で知られる。法名は養福院殿法山寿慶大禅定尼であり、ゲーム上の名前は法名から取られたものだろう。
―――大谷渓大谷渓安岐(PS2のみ)大谷吉継の娘。真田信繁(幸村)の正室。法名は竹林院殿梅渓永春大姉。実名は竹姫、安岐とも言われる。
―――波多野充波多野充―――波多野晴通の娘。別所長治に嫁ぐ。Wikipediaの別所長治の項によれば、実名は照子というらしい。
――――――大内万―――大内義興の娘。大友義鑑の正室。大友宗麟の母。実名は不詳。
―――十河紫十河紫―――十河景滋(存春)の娘。三好長慶の弟一存が十河家を継ぐ際に嫁いだ。実名は不詳。
九州
―――大友桐大友桐―――大友義鑑の娘。河野通宣に嫁ぐ。実名は不詳。
―――大友清大友清―――大友宗麟の娘。一条兼定に嫁ぐ。実名は不詳。
―――小田麗小田麗―――小田政光の娘。龍造寺隆信の末弟の龍造寺長信に嫁ぐ。実名は不詳。
―――相良良相良良―――相良晴広の娘。島津義弘に嫁ぐが離縁。Wikipediaの島津義弘の項によれば、実名は亀徳というらしい。
―――伊東京伊東京―――伊東義祐の娘。肝付良兼に嫁ぐ。妹の子が伊東マンショ。Wikipediaの伊東義祐の項によれば、実名は高城というらしい。

■総評

 大まかな傾向を見てみると、烈風伝での姫君の名前は特に出典というものはなくランダム作成で候補となる名前の中から選んでいるように見える。
 一方、天下創生以降では戒名や法名などが残る姫君は概ねそれをもとに名前をつけるという方針が出てきている。また、このとき付けられた名前が後発の作品でも踏襲されている。
 ゲームシステムの仕様上、姫君の名を「名字」+「名前」で記しているのには違和感を感じないでもないが、「織田弾正忠」や「平朝臣信長」と当時称されていた人を現代では「織田信長」と呼んでいるのだから、そういうものなのかもしれない。


■参考文献・サイト

・日本語版Wikipedeia  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8


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