『元朝秘史』における架空人物命名システム(武将編)

(注)この調査にはPS版、SFC版、FC版を使用した。オリジナルであるPC版の架空人物命名システムはSFC版と同様と考えられるが、細かい差異がある可能性がある。各版のユーザーの方は、その点を考慮した上でこのレポートを参考にして頂きたい。


■日本文化圏

(PS版)
源   平   阿野  安達  一条  宇都宮 越智  河越  
鎌田  菊池  九条  結城  江戸  佐竹  佐藤  佐々木 
山本  小山  新田  曾我  足利  村上  大庭  中原  
中山  津々見 藤原  板垣  比企  武田  豊島  北条  
里見  和田  

為 義 教 兼 光 幸 国 資 実 宗 清 泰 忠 朝 通 貞 道 頼 利 和 

遠 家 季 久 景 経 綱 衡 高 氏 信 親 成 政 盛 長 平 茂 隆 時 

(SFC版)
平   藤原  比企  北条  和田  

為 義 実 清 泰 忠 道 頼 

家 綱 高 氏 親 政 長 時 

(FC版)
平   山崎  藤原  北条  和田  

義 実 信 宗 泰 忠 道 頼 

家 綱 高 秀 親 政 長 時 

 まずは、お馴染み日本。日本の武将命名は明らかにB型。「源」「平」などの一文字の姓と名の間には、一つ空白が入る。

 SFC版の武将命名はバリエーションの面で大きく劣るが、源平シナリオが存在せず日本文化圏は一国のみという事情を考えると、これで困ることは無いのだろう。蒼き狼IVの架空人名命名システムのレポートと読み比べてみると、これらの要素が次回作での日本地域での架空武将の名前に引き継がれていることがよく分かる。

 FC版では、他の2機種版とやや傾向が異なる。SFC版と比較してみると、何が消えて何が代わりに入ったか一目瞭然だ。これは、ファミコンでは使用できる漢字数に制限があるので有りあわせの漢字で出来る名字を持ってきた、というのが実情だろう。当時のロムは現代では考えられないほどに容量が小さく、従って収録できる漢字数にも大きな制約があったのだ。そういう状況で、他版と同じ命名システムを再現する為だけに「企」という漢字を入れるよりは、比企姓を削る一方で史実武将の名前に使われた漢字をこういう形でリサイクルしているのだろう。しかし、何故に山崎?

 PS版の方を見ると、蒼き狼IVの時よりもかなりバリエーションが充実していることが分かる。名の中で読みが同じの字が二つ連続しないよう工夫が凝らされているのも、注目に値する。しかし、使用している要素の多数が平安鎌倉時代の有名人物から採られているのか、史実に存在した武将と同姓同名の人物が高頻度で登場するようだ。蒼き狼IVでは架空武将で「藤原道長」が仕官してくることもたまにあったが、このバリエーションでは「平 清盛」「源 義経」が理論上架空武将として登場し得るのだ。「別に構わない」と思うかもしれないが、こういう有名人物と同姓同名の武将の能力があまりに低く悲惨なものだったとたら(このゲームでの架空武将の能力値は、総じて低め。ごく稀に名将が現れることもあるが)、その有名人物に対するプレイヤーのイメージとギャップを生じてしまうのではないだろうか?

 さて、PS版が他の版と違うのは「源平シナリオ」、つまり日本統一編のシナリオが付いているという点だ。使用可能な勢力は「清和源氏」「木曽源氏」「桓武平氏」「奥州藤原氏」の4つで、日本を統一するとそのまま世界編に移行できるのだ(世界編移行とともに、それぞれ「鎌倉幕府」「木曽幕府」「福原幕府」「平泉幕府」と改名する)。他にも「常陸源氏」「摂津源氏」「河野水軍」「九州武士団(肥後菊池氏が主体)」が独立勢力として登場する。登場する武将も在野の人材を含めて多彩なので、源平合戦を扱った家庭用ゲームの中では唯一まともに遊べるSLGと言える。ただ、武将がゲーム上から失われやすいシステムと謀反発生率のの高さのおかげで、ゲーム開始10年後には勢力も当主もめちゃくちゃになっていることが多いのが難点か。桓武平氏もコンピュータ勢力の場合は、早めに死んでしまう清盛の後継に架空武将がなる事が多いし。


■中国文化圏

(PS版)
王 郭 関 韓 金 厳 高 朱 石 張 陳 孟 李 陸 劉 

(安 敬 継 健 元 克 子 宗 承 紹 世 大 徳 文 宝)

遠 義 広 秀 順 昭 信 真 仁 成 貞 惇 民 明 裕 融 

(SFC版)
王 金 朱 陳 李 劉 

安 健 元 大 徳 文 

広 順 昭 惇 明 融 

(FC版)
王 郭 金 高 朱 陳 田 李 

安 慶 元 大 徳 伯 文 方 

興 広 山 順 昭 世 忠 明 

 中国文化圏の武将命名はB型。このゲームでは武将命名の区切りが文化圏単位になっているので、朝鮮半島も安南もこの命名法に従う。

 SFC版の命名システムでは、武将の名前は必ず三文字になる。バリエーションが少ないので、同じような武将ばかり出てくるような感じになってしまうのが難点か。

 FC版は、実はSFC版よりも名前の種類が多い。よく見てみると、元朝秘史に登場する史実武将から苦心して漢字を集めている様子が伺える(例:郭守敬、金方慶、シャンパーニュ伯)。上でも述べたことだが、技術的な理由で字数制限があってもこれだけの命名システムを作れることに素直に感動してしまう。

 PS版のほうはと言うと、中国文化圏でも名前の要素は蒼き狼IVより充実している。傾向としては、三文字武将の方が二文字武将よりも多くなるようだ。ただ、新たに追加された姓のパターンがやや三国志寄りではないだろうか?


■モンゴル文化圏

(PS版・SFC版・FC版共通)
パ行音、促音、拗音、長音、「ヴ」、「ヂ」、「ヅ」、「ヲ」を除く任意のカタカナ2文字or3文字
(1文字目のみ「ン」不可)

ガイ クル ダイ トク ・ベキ

 蒙古文化圏の武将命名はA型。ただし、蒼き狼IVよりも語尾の種類は少ない。カタカナで名前を作っている文化圏は漢字制限と無縁なので、機種による差は見られなかった。


■内アジア文化圏

(PS版・SFC版・FC版共通)
パ行音、促音、拗音、長音、「ヴ」、「ヂ」、「ヅ」、「ヲ」を除く任意のカタカナ4文字〜6文字
(1文字目のみ「ン」不可)

 内アジア文化圏の武将命名はA型。文字をデタラメに並べて名前を作っているので、当然ながら出来た文字列は名前に見えないことが多い。蒼き狼IVでのトルキスタンと中央アジア出身の架空武将の名前は何かと不評だが、これでも元朝秘史よりは進歩していることが伺える。


■南アジア文化圏

(PS版・SFC版・FC版共通)
パ行音、促音、長音、「ヴ」、「ヂ」、「ヅ」、「ヲ」を除く任意のカタカナ3文字or4文字
(「ティ」「トゥ」「チャ」「チュ」「チョ」を含む。1文字目のみ「ン」不可)

クラ ジャヤ トゥ ドラ ラージャ 

 南アジア文化圏の武将命名はA型。蒼き狼IVとは、語尾の種類は同じ。非常に低確率ながら、拗音を含む名前が出現することもある。


■イスラム文化圏

(PS版・SFC版・FC版共通)
アル・ アブド イブン ケイ ナー マフ

パ行音、促音、「ヴ」、「ヂ」、「ヅ」、「ヲ」を除く任意のカタカナ3文字or4文字
(「ティ」「トゥ」「チャ」「チュ」「チョ」「ー」を含む。1文字目のみ「ン」「ー」不可)

 イスラム文化圏の武将命名は特殊で、特定の語頭の後に任意の文字列が続く作りになっている(これを「逆A型」と名付ける)。


■東欧文化圏

(PS版・SFC版・FC版共通)
パ行音、促音、長音、「ヴ」、「ヂ」、「ヅ」、「ヲ」を除く任意のカタカナ2文字or3文字
(「ティ」「トゥ」「チャ」「チュ」「チョ」を含む。1文字目のみ「ン」不可)

シオス スキ スラフ トリ ドロス

 東欧文化圏の武将命名もA型。この頃は、欧州出身武将の名前も適当だった。各語尾の出所は、下記の通り。

シオス   「アレクシオス」(ギリシア語の語尾 -ios)
スキ    「○○スキー」(スラヴ諸語で「○○から来た人」)
スラフ   「ヴラディスラフ」「ヤロスラフ」(スラヴ諸語で「栄光」の意)
トリ    「ドミトリ」(ロシアの人名)「バートリ」(ハンガリーの名門貴族の家名)
ドロス   「テオドロス」(ラテン語の語尾 -os)


■西欧文化圏

(PS版・SFC版・FC版共通)
パ行音、促音、「ヴ」、「ヂ」、「ヅ」、「ヲ」を除く任意のカタカナ2文字or3文字
(「ティ」「トゥ」「チャ」「チュ」「チョ」「ー」を含む。1文字目のみ「ン」「ー」不可)

スタン トゥス バート ベスト ヴィヒ
 
 西欧文化圏の武将命名もA型。各語尾の出所は、下記の通り。

スタン   「トリスタン」(アーサー王伝説に登場する騎士)
トゥス   「アルベルトゥス」(ラテン語の語尾 -us)
バート   「アルバート」「ヒューバート」(ゲルマン諸語で「明るい」の意。現代英語でのbright)
ベスト   不明?
ヴィヒ   「ルートヴィヒ」(ドイツの男性名)


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