架空人物命名システム(東アジア編)

■日本

安藤 横山 加藤 吉田 吉良 九条 工藤 高階 佐竹 三浦 
山田 若狭 駿河 真壁 清原 斉藤 石川 千葉 船田 村上 
太田 筑後 藤原 比企 尾藤 武田 武藤 毛利 毛呂 和田 

為 義 実 将 清 盛 泰 忠 貞 道 頼 

家 久 綱 高 氏 信 親 政 長 房 時 

 まずは、お馴染み日本。日本の武将命名は明らかにB型。

 少なくとも、それぞれの要素におかしな所は見られない。強いて上げれば、「名前一文字目の『将』なんて、『平将門』以外使わないだろ」とか、「『筑後』『若狭』『駿河』なんて名字が何処から出てきたんだ」とか、そういった点がある程度だ。なお後者については、それらを名字に持つ人物が吾妻鏡等の当時の記録に登場しているので問題は無い。

 しかしお気付きだろうか、この時代ではメジャーなのに上の30個に含まれていない名字がある。『源』『平』『橘』などの一字の名字だ。ただ厳密には、これらは「名字」ではなく「氏」なのだが、源平藤橘の一つである『藤原』が上のリストに入っていることから「氏」と「名字」を区別しようとする意図はなさそうだ。

 (余談だが、本来「氏」とは自らの血族を表し、「名字」は自らの領地や住所や所属する共同体、つまり『イエ』を表すものだった。時代が下るにつれて多くの個人の本来の系図が忘れ去られるにつれて「氏」の意味は失われ、「氏」「姓」と「名字」は混用されるようになったのだ。)

 また「架空武将はあくまで部下としての存在だから、大仰な名前を付けるのはおかしい」という説明もあるだろうが、それでは当然のように『九条』が入っていることの理由にならない。『九条』という名字は藤原道長(たまに、架空武将としてこのゲームにも登場する)の子孫にして関白を務めた九条兼実を祖とし、中世を通じて公家の主要な位置を占めた。十分過ぎるまでに、部下としては「大仰な名前」なのだ。ともあれ、極めてマイナーな『筑後』『若狭』『駿河』が入っているのに『源』『平』『橘』が除外されるのは納得がいかない。歴史的な必然性が見当たらない以上はおそらく、システム上の問題があるに違いない。

 そこで、実験をしてみた。新国王「平清盛」を蝦夷地に作成(意味は無いけれど、顔は「琵琶法師」に)、子供作りに邁進する。念願の長男が誕生し名前の入力を求められ、[お任せ]を選択し、提案された名前を見てみる。

         平清忠長

 ……何てこった。その後、何回も[お任せ]を選択したが、提案されるのは、「平清為久」「平清清房」といった名前(?)ばかり。

 おそらく、日本出身の武将は息子の名前を名付ける時には自身の名前の先頭二文字が「名字」として解釈されるのだと考えられる(この場合は「平清」が名字扱い)。この現象は国王の名前を「橘諸兄」「武蔵坊弁慶」にしても同じだった(今明かされる事実。九郎判官義経の忠実にして勇猛なる従者、姓は「武蔵」、名は「坊弁慶」……)。

 ただし、カタカナ名、ひらがな名の場合は違うようで、新国王「リチャード1世」(日本出身)を作成して子供を作っても、「吉良道政」「藤原貞時」「三浦実信」といった国王の名前とは無関係な名前が提案されるだけだった。また、国王の名前を「平 清盛」とすると、息子の名前が「平 盛時」「平 清高」となった。先頭二文字が漢字またはスペースの場合に、その二文字が「名字」として解釈されるのだろう。ということで新国王を平氏にしたい方には、国王の名を「平 ○○」とすることをお勧めする。自動生成される名前を使うつもりがないのなら構わないけれども。

 但し、国王の名字が『源』の場合は例外のようだ。源姓の新国王、つまり頼朝らとは血縁関係に無い源姓の新国王を作ってみても子供の名前は三文字に収まった。これは、後述の「司馬」同様システム上で何らかの特別な処理が存在すると予想されるが、流石にプログラム上の問題なのでこれ以上はお手上げになってしまった。

 さて、このゲームでの「日本」地域は本州・九州・四国は勿論のことながら、琉球・蝦夷地・樺太島をも領域に含んでいるが、この時代ではこれらの三地域に和人はほとんど居住していなかったはずだ。蝦夷地で新国王が旗揚げしても、部下が鎌倉武士然とした名前ばかりで奇妙な感じがする。せめて、日本で製作されたゲームなのだからその辺りに何らかの配慮が欲しかったように思われる。この問題については、改良案の項で詳しく述べたい。


■中華(華北・華南・台湾島・海南島)

王 金 胡 司馬 朱 石 陳 鄭 楊 李 劉 

┌・総合能力値 209以下
│ 安 健 元 大 徳 文 勇 雄 
│ +                     ……(1)
└ (燕 広 順 昭 惇 明 融)

┌・総合能力値 210以上
│ (岳 幻 獅 俊 石 孫 鄭 白 趙)
│ +                     ……(2)
└ 虎 象 鷹 彪 龍 狼 鷲 鶴 

 華北・華南・台湾島・海南島の武将命名はB型。ちなみに台湾島や海南島出身の武将の顔グラフィックは華南と同じだが、華南と華北で名前の要素に差異があるということは無く顔グラフィックの差異のみにとどまっている。つまり、四地域とも命名システムは共通しているのだ。

 日本や中国も姓と名を組み合わせて名前を作っているのはB'型と同じだが、日本と中国で特徴的なのは「姓」が親から子へ受け継がれる、ということだ。さらに、中国では名が一文字の場合と二文字の場合がある。上の括弧で括ってある漢字は名前が二文字になる時に限って使用される。

 名前が四文字になる場合もあって、それは「『司馬』姓で名が二文字の自動生成武将」と「『司馬』以外の二文字姓の武将の息子」の二つのケースになる。前者はシステム上で特別な処理が働いているのか、「『司馬』姓で名が二文字の自動生成武将」の息子の名が一文字になることもある。しかし、後者は常に名が二文字になる(シナリオ1の章宗の息子たちの名がいつも二文字なのに気付かれた方もいるだろう)。些細なことかも知れないが、ここにもシステムの複雑さが見て取れる。

 また、中国文化圏で鶴とか鷹、あるいは虎の字が入る将軍は普通の名の将軍より強いことを経験的に知っているプレイヤーの方もいるだろうが、実際に新国王の能力をあれこれいじりながら自動で命名した結果、総合能力値(=政治+戦闘+智謀)が209以下の場合は上の(1)のパターン、210以上の場合は(2)のパターンになることが判明した(つまり、能力値のどれかが高ければ必ずそういう名前になるという訳ではない。戦闘が90以上あっても他の能力が低ければ「朱元昭」「陳大」「王徳」といった平凡な名前になることがあるのは、以上のような理由による)。

 ところで、ゲームをある程度進めると敢えて史実武将を婿将軍にした上で後継者にする人も多いと思われる。たいていは、架空武将に対する史実武将の希少さからついつい優遇してしまうし、中国の場合は優秀な史実武将にも恵まれている。そういうわけで文天祥なり陳興道を国王にしてプレイしてみると、息子を命名する時に二文字目まで親と同じ名前(陳興道なら、「陳興龍」「陳興明」といった具合)が提案されることに気付く。史実武将でなくとも、自動生成システムでは登場し得ないような名前で同様のことが起きるようだ(例えば、華南出身の「源頼朝」を作ってみると、子供の名前は「源頼広」「源頼燕」)。多分親にちなんだ名前を付けさせる為の処置なのだとは思うが、祖先を敬う儒教道徳の根強い中華世界では親が名前に使った文字を子供が使うことは古くから禁忌とされていたのだ。製作者側はこういうことで下手に色気を出すよりも、もう少し命名に使用する漢字の種類を増やすことで命名システムを充実させるべきではなかったか。架空武将の名前を三国志並みに多様にしろとは言わないが、姓が11種類しかなくてはすぐに似たような名前の武将ばかりになるし、何しろ中国人の姓の中でも代表的な「張」が選に漏れたのは大きい。

 中国文化圏は三国志や水滸伝で日本にも馴染みが深いからこそ、架空人物の名前ももっと練り込むべきだろうし、そしてその余地も大いにあると思われる。ちなみにチベットはゲーム上では中国文化圏に属するが、中華四地域とはまったく異なる命名システムを持っている(実際、前作「元朝秘史」では中央アジア地域と共に内アジア文化圏に属していた)。中華世界ともモンゴルともインドとも微妙に異なっていて扱いが難しいのだろう。よって、この項ではなく中央アジア・南アジア・西アジア編に譲ることにする。


■朝鮮・済州島

金 安 朴 林 李 権 廬 辛 許 鄭

大 東 学 建 栄 真 顕 哲

中 民 換 成 献 勲 浩 俊

 朝鮮・済州島の両地域の命名法は上の通り。日本・中華四地域のように一文字と二文字の姓が併存している訳でもないし、能力値によって名前に使われる字が変わるということも無い。極めてシンプルでB型の説明モデルとするに値する命名システムと言える。かなりの確率で「金大中」(かつての韓国大統領と同名)に出会えるのはただの偶然だろうか。


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